昨年11月19日より来年5月頃まで、三鷹の森ジブリ美術館にて山脇百合子さんの企画展示が開催されているのですが、その公式図録が発売されましたので紹介します。

[本]山脇百合子の仕事部屋 ごちゃごちゃから見えるもの/企画:三鷹の森ジブリ美術館、スタジオジブリ(amazon)
KADOKAWA 2026.4.28発売 2420円(税込)
ISBN:978-4041173817
『山脇百合子の仕事部屋』展 ~ごちゃごちゃから見えるもの~と題して、美術館の一室を使って山脇さんの仕事部屋が再現されています。
山脇百合子さんは絵本『ぐりとぐら』の絵を担当された方として知られています。文を手掛けた中川李枝子さんとは姉妹で、二人で文と絵を手掛けた著作も多くあります。映画『となりのトトロ』のオープニングテーマ「さんぽ」の作詞を中川さんが担当されたことからスタジオジブリとの交流が始まり、お二人の著作より『くじらとり』と『たからさがし』が三鷹の森ジブリ美術館で上映される短編アニメーション作品として映像化もされています。今回の展示もそうしたこれまでのお付き合いの中で実現したようです。
先日、三鷹の森ジブリ美術館に初訪問して展示を見てきました。仕事机から本棚を中心に膨大な私物が配置されており、書籍を中心に好きなものに囲まれながら仕事をされていたんだなぁと思いを馳せることができる展示になっていました。
他にもこれまで手掛けてこられたイラストの原画やスケッチにはじまり、子供の頃に描いた絵や、趣味で作られた刺繍やパッチワークキルトなどの作品群、友人や家族に宛てて書かれた手紙の数々といった膨大な私物も展示されていて見応えがありました。子供のために描いた絵の中には『Dr.スランプ』のアラレちゃんの絵もあったりして面白かったです。
書籍でも展示内容がしっかり収録されているので、会場の雰囲気を感じられますし、一部展示では見づらかった部分がちゃんとチェックできるようにもなっています。書籍だけの企画として掲載されている山脇家のみなさんによる座談会などの読み物も山脇さんの人となりを感じられて楽しいです。
一方、原画などのイラスト群に関してはどうしてもサイズが小さく収録されてしまうので、そこに関しては現地で見たほうがいいですね。
展示を見て改めて知ったこととしては、こんなにも文章のお仕事も手掛けられていたんだという点です。大学ではフランス語を学んでいて、絵本や児童文学の翻訳のお仕事をされていたり、絵と文の両方を手掛けた作品も多数あることをはじめて知りました。
『母と友』に山脇さんが文と絵を手掛けた「ゆうこのキャベツ」というおはなしが掲載されたあとに、それを読んだ姉の李枝子さんから送られてきた手紙が展示されていたんですが、作品に対する指摘が端的にまとめられたものになっていて、それでいてお二人の関係性も感じられるちょっと感動的な内容でした。
百合子様 母の友拝読、不屈の精神に敬意を表し、私の弟子第一号として、(いらぬお世話と申されようとも)幼年童話の手法を(秘法)少々、お伝えします。
私が書いた「キャベツぼうし」を読んでみて、おわかりでしょうが、先ず、具体的に、見えるように書くこと。「思った」「考えた」は禁物。過去へ戻るのも混乱のもと。時間、場所もハッキリさせること。あやふやは一番よくありません。「ごはんの支度(※)」なら、いつのごはんなのか説明して下さい。
おとなのおしゃべりにならないように、常に自分の感情を抑えて、「そっけなく」かまえることも大切です。
他の作品(母の友の)にくらべれば、貴女のが一番面白かった。あと一息がんばってみては、いかが。
『山脇百合子の仕事部屋 ごちゃごちゃから見えるもの』KADOKAWA (2026) P70より
※「ゆうこのキャベツ」は「おかあさんが だいどころで ごはんのしたくを はじめました。」という書き出しで始まっています。
中川さんが書き直した原稿もあったそうですが、現在は行方不明とのことで展示はされていませんでした。読み比べてみたかったなぁ。山脇さんは(姉の存在の影響なのか)おはなしを作るのはそこまで得意ではないという認識だったようで、絵がメインの活動となったようです。
スタジオジブリとのつながりのそもそものきっかけとしては、宮﨑駿監督がお二人が手掛けた『いやいやえん』という童話が大好きだったというのがあります。2014年にぐりとぐら50周年記念で開催された中川李枝子さんと宮﨑駿さんのトークイベントがあり(僕も見に行った)、その際に山脇さんの絵の話になり、宮﨑さんは以下のように話されていました(イベントの内容がまとめられた『母の友』より引用です)。
ぼくは、『いやいやえん』の絵を見て、本当にまいったんです。こういう邪念のない絵というのは、どうしていいかわからない。(中略)この絵の力はね、ほんとうに初心で描いてあることです。ぼくらアニメーターは絵をいっぱい描きますから、描くうちにどんどん手慣れて、ゴールがわかるような線をいっぱい引くようになってしまう。だから、どこへ行くかわからないで描かれてる絵には本当に胸を打たれます。
『母の友』 2014年6月号 福音館書店 P58より
山脇さんは絵を描く際に実物を見てから描くことにこだわりがあったようで(見ないと描けないとも)、『いやいやえん』に登場するしげるちゃんを描く際にはそのモデルになった男の子をお借りして家に一泊泊まってもらったなんてエピソードもあるほどです。
宮﨑さんは上記の対談の中で「ちゃんと見てあの絵を描くってすごいですよね(笑)」とも話されてますが、ただ素朴なだけではない長く愛される強さが宿った絵になっている理由もそういうところにあるのかもしれないと思ったのでした。
これまで、作品そのものや中川さんを掘り下げた文献などはあったと思うのですが、山脇さん個人にスポットを当てた企画って意外とあまりなかったと思うんですよね。今回の展覧会をきっかけに、これまでちゃんと認識できていなかった山脇さんのことをたくさん知ることができて、本当にいいきっかけになりました。
三鷹の森ジブリ美術館の展示は来年5月頃まであるそうなので、気になる方はぜひ現地に行ってみてほしいです。ずーっと前からいつか見たいと思っていた『くじらとり』も見られて最高でした。『たからさがし』も見たいので、会期中にもう1回は見に行きたいと思います。
→[本]山脇百合子の仕事部屋 ごちゃごちゃから見えるもの/企画:三鷹の森ジブリ美術館、スタジオジブリ(出版社の紹介ページ)
→『山脇百合子の仕事部屋』展 ~ごちゃごちゃから見えるもの~(三鷹の森ジブリ美術館)
→[雑誌]MOE 2026年7月号「山脇百合子 絵本・暮らし・ジブリ」(amazon)…6/3発売号で山脇百合子さんが巻頭特集されるそうです。MOEでも山脇さん単独の特集ははじめてなのでは。
→[本]絵本と子どもと歩いた日々/山脇百合子(のら書店)…山脇さんが生前に綴られたエッセイが収録された書籍が3月に発売されています。
→[本]ISSUE 中川李枝子 冒険のはじまり(SWITCH PUBLISHING)…2年前に発売された中川李枝子さんが特集された書籍です。同人誌『いたどり』に収録された最初のバージョンの『いやいやえん』が収録されていて、山脇さんが高校時代に手掛けた挿絵も確認できます。