かいそう

前回からの続き)
 
タッパー
タッパーから最初のコチョチョコくんを取り出し
手のひらに乗せ、話しかけます。
 
「君のおかげで、コチョチョコくんがたくさん増えたよ」
「うん、よかったねっ。これで毎日飽きるほどぼくたちを食べられるねぇ」
「そうだね…。ね、コチョチョコくん、
君はずっとタッパーの中に居るけど、
他の子たちみたいに外に出て遊びたかったら言ってよね」
「ありがとう。でもぼくはここで思索に耽るのがけっこう気に入ってるんだ。
あ、でもぼくを食べたくなったら遠慮なくいつでも食べていいからね」
 
手のひらに乗る
 
最初のコチョチョコくんは、いつも
”なぜぼくたちは増えるのか”
”なぜぼくたちは食べられることが喜びなのか”
と言ったことを考えているようでした。
 
 
そんなある日、ぼくの家にお客さんが訪ねてきました。
「こんにちは。チョコくださいな」
くださいな
「え、ここはチョコ屋じゃなくてロケット屋ですけど…」
ぼくは戸惑いながらそう答えました。
「あれ、そうなんですか。チョコの甘いにおいがするから、
チョコ屋さんなのかと思ってしまいました。
そうか、チョコ屋じゃないのか。残念だなぁ」
 
どうも、コチョチョコくんが増えすぎたせいで、
チョコの香りが外の通りまで漂ってしまっているようなのでした。
残念そうにしているお客さんを見ていると、
ちょっと気の毒になったのもあって、
コチョチョコくんを1粒、あげることにしました。
お客さんは最初はびっくりしていたけど、口に入れると態度を一変させ、
「これはすごい!ふわっととろけて、幸せな気持ちに包まれる!」
と大変驚いていました。
 
そこからは怒濤の勢いでした。
 
その日のうちに「幸せのチョコ」の噂は噂を呼び、
コチョチョコくんをほしがる人達がぼくの家に押し寄せてきたのでした。
あまりの勢いに押されて、1粒ずつ配ることにしましたが、
すぐに在庫は底を尽きてしまいました。
冷蔵庫の中のコチョチョコくんを残して。
「もうなくなっちゃったので、配布はもうおしまいです!」
「そんなわけない! まだ隠し持ってるだろ!」
「わかった、残りは高値で売るつもりだろう」
「それなら1粒1万円で買うから売って欲しいわ」
「いや、私なら3万円出すぞ」
「結局金持ち相手かよっ」
「オラの田植え機やるからダメだか?」
 
もうないったら!!
 
ないったら! 
 
とにかく玄関のドアを閉めようと思い、
先頭にいる人を外へ押し出そうとしました。だけど、
「あ、店主が客に手を出したぞ。捕まえろ!
俺たちはその間に中を探すから」
なんて声が上がり、あっという間に引っ捕らえられてしまったのでした。
 
 
 
 
 
拘置所 
拘置所の中で思いました。
冷蔵庫の中のコチョチョコくんたちも食べられてしまったかな。
でも、食べられることが幸せだった…んだよね?
 
たくさんの幸せをありがとう、コチョチョコくん…。

かいそう

チョコ2つ
お礼にチョコを2つもらった。
2つか…。
 
 
と思っていたら、チョコがもぞもぞと動いたような。
 
ぴょこ、ぴょこ!
 
顔が出た
わわ、チョコに顔が出てきた!
 
「驚かないで。ぼくたちはコチョチョコくんっていうんだ。
ぼくたちを食べてごらんよ。おいしいよ!」
 
え、食べるったって、喋ってるし、手足や顔が、ねえ、顔があるよっ!
とか思っているうちに、チョコの片一方が
ぼくの口めがけて飛び込んで来ちゃった。
 
ぱく! もぐもぐもくもぐ…。
お、おいしい…。
 
おいしい…
 
 
「ほらねっ」
ほらねっ
もう片一方が得意げにそう言いました。
 
「もっと食べたい?」
「…食べたい」
「じゃあ、いいことを教えてあげるよ。
ぼくをタッパーに入れて冷蔵庫に入れてごらん。
一晩たてば分裂して増えてるから」
 
半信半疑で、言われたとおりやってみました。
明くる朝、言われたとおりコチョチョコくんは2人になっていました。
 
「ほら、増えたでしょ。
さあ、1つお食べ」
 
そう言うと、コチョチョコくんの1人がまた口の中に飛び込んできました。
 
ぱく! もぐもぐもぐもぐ…。
口の中に甘くて香ばしい香りがふわっと広がります。
香りとともに、すごく幸せな気分も体中に広がっていくのが分かります。
 
はーと
「おいしい…」
 
1人になったコチョチョコくんを再びタッパーに入れ、冷蔵庫にしまいました。
その日から、毎日1粒コチョチョコくんを食べる日がはじまりました。
本当は、2人に分裂したコチョチョコくんをもう1日寝かせておけば
4人に分裂するんだから、その方が得だと思うのですが、
我慢できずに食べてしまうのでした。
 
 
そんな日々がしばらく続きましたが、
どうにか我慢に打ち勝ち、ついには
コチョチョコくんを100人まで増やすことができたのでした。
 
増えすぎても持てあましてしまうので、
タッパーには少しだけ入れておいて、
残りのコチョチョコくんたちは部屋の中に居てもらうことにしました。
みんなで走り回ったり、わいわいと遊んでいます。
そのうちの1人がぼくのところにやってきてこう言います。
「ね、ね、ぼくたちのこと、食べたければ言ってね」
食べてね
 
そんな賑やかな中、ぼくは冷蔵庫からタッパーを取り出します。
タッパーの中のコチョチョコくんの1人は
最初にもらったコチョチョコくんでした。
 
 
次回へ続く)