かいそう

やめた方がいいよ
「ねえ、やっぱりやめた方がいいよ」
「ごめん。やめることはできないんだ。これが一生の夢だったからね」
 
夢のことを考えるとき、ぼくはひかるくんのことを思い出すのです。
 
 
 
 
 
 
 
              あまのがわひかるくん 
 
 
 
あまのがわひかるくん。そう名乗ってた。
いつものように宇宙船「タコチャン号」に乗って、宇宙の中を移動してたら
何もない宇宙空間をふわりふわりと漂っているんだもん。
見つけたときはびっくりしたなぁ。そんなことはじめてだったからね。
 
 
 
「ちょうどよかった。少し乗せていってよ」
ひかるくんは最初からのんびりしたしゃべり方でした。
なんでも、目的地まで宇宙空間を漂いながら向かっていたんだけど、
同じところをぐるぐる回ったりして、なかなかたどり着けなかったんだって。
 
「ひかるくんは、何しにどこへ向かっているの」
「あっちの方へ、夢を叶えに向かっているんだよ」
「へ、へぇ~」
 
夢を叶えにってなんだろ…。
もうちょっと詳しく聞いてみたいけど、聞いていいのかな。
そうこうしているうちに、ひかるくんは
「あ、もうこのへんでいいや」
と言いました。
 
このへんと言っても、星ひとつないなにもない空間です。
こんなところでいいのかな。
タコチャン号を止めると、さっそく外へ出ようとするひかるくん。
 
「ねえ、ひかるくんの夢ってなんなの?」
思い切って聞いてみました。
「えっとね、雲になることなんだよ」
ひかるくんはそう答えたあと、詳しく説明してくれました。
自分は天の川の精だということ。
天の川の精は大きくなると宇宙に出て、
自分の体を粉々にして雲のようになり、宇宙空間に散らばらせること。
そして、その一粒一粒が新しい星が生まれるときの核になるってこと。
 
「体を粉々って…どうやるの」
おそるおそる聞いてみました。
「爆発させるんだよ。体がそういうふうになってるんだ」
「死ぬの?」
「死なないよ。だって、たくさんの星になるんだもの。
体のかたちが変わるっていうのかなぁ。
脱皮する虫って見たことある? ああいう感じだよ」
 
ぼくもけっこう宇宙を旅しているから、
だいたいのことには動じないと思っていたけど、
ひかるくんの言ってることは、まるで理解できませんでした。
とにかく止めないといけない。
 
だけど、無理でした。
それがひかるくんの一生の夢だからなんだって…。

見ててね 
「10円くん、ぼくが雲になるところ見ててね。きっときれいだから!」
 
ひかるくんは最後にそう言うと、外に飛び出ていきました。
飛んでった
体全体を光らせながら、打ち上げ花火のように遠くへ飛んでいきました。
そして…。
ひかるくん 

光るひかるくん

真っ暗闇な空間に、七色のきれいな雲が広がりました。
 
 
 
 
 
 
ぼくにとっての一生の夢ってなんだろう。
ずいぶんと宇宙の中をさまよっているけど、
見つけられる気配さえしないよ。
 
 
 
夢のことを考えるとき、僕はひかるくんのことを思い出すのです。