まむしの健哉

まむしの健哉はもうすぐ5才。保育園に行き始めたのですが、なにやら、様子がよくありません。というのも、同じ教室のなかまからあんまり仲良くされていないのです。そこには何か、超えられない深い溝があるような、そんな感じなのです。

それでも健哉はみんなの輪の中に入ろうとしました。まず最初に、かえるの洋輔くんにいっしょに遊ぼうと言ってみたのですが断られてしまいました。続けて、うさぎの翔太くんや、ねずみの準くん、ムササビの沙弥香ちゃんにも話し掛けたのですが、誰もいっしょに遊んでくれないのでした。

なんで誰も遊んでくれないんだろ…。保育園からの帰り道、そんな気持ちでいっぱいになっていたところ、向こうから、同じ教室のいたちの和斗くんとリスの花歩ちゃんが歩いてくるのが見えました。健哉はしげみの中に隠れました。別に隠れなくてもよかったのですが、とっさにそうしてしまったのです。

すると2人はちょうど健哉のことを話していたのでした。
「健哉くんはまむしだから毒があるって。お母さんがいっしょに遊んじゃいけないって言ってたよ」
「私も言われたー」
その後、2人の声が聞こえなくなってから、健哉はしげみの中で涙を流したのでした。

次の日から、健哉は誰にも話しかけないようにして、そっと過ごすようになりました。それでも、教室のなかまからの冷たい視線を感じない日はありませんでした。そしてある日、いつものように保育園が終わって帰ろうとした時、自分のかばんの中に見慣れない紙切れが入っていることに気づきました。それは折り紙でした。しかし裏側にはこう書いてあったのです。
『どくもちまむしはどくきのこたべてしんじまえ』

健哉は、家から少し離れたところにある、日当たりの悪い森に来ていました。そして毒きのこを見つけました。そう、健哉はいっそのこと本当に毒きのこを食べてしまおうと心に決めていたのです。そして食べようと毒きのこに手を伸ばした時でした。きのこがしゃべりだしたのです。
「死のうってのか? だったらよそでやってくれ。俺はおまえに食べられると死んでしまうんだ。だけど俺はな、おまえのようなくだらん奴の巻き添えを食うのはごめんだ。あっち行けよ」
そう言うきのこを、健哉は食べることができませんでした。

家路についた健哉は、母まむしにひとこと尋ねたのでした。なぜまむしには毒があるのか、と。母まむしはすべてを悟り、じっと目を見て答えました。
「健ちゃん、どんなことがあってもね、忘れてはならないことがあるの。どんな動物だって、他の動物を犠牲にして生きているんだって。毒があるからいけないとか、そんなことはない。でもね、絶対毒は使っちゃダメなの。そうやってまわりに認めてもらうのよ。負けたらアカンのよ。」

その夜、健哉は星空を見ながら考えました。よし、明日も生きるぞって。

(書いた日:1996.11.26、一部修正:2002.3.20)

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