いっしょにピクニック

天気のいい日です。
空は透き通るような青です。
そんな空をぼーっと眺めていたコンちゃんは、無性にピクニックに行きたくなりました。
そこで友達を誘って、本当に行くことにしました。
ツネコさんの家の前に行って声を張り上げてこう言いました。
「ツーネコさーん、ピクニックにいこー!」
するとツネコさんはバスケットを持って家から出てきました。
コンちゃんとツネコさんは、2人で近くの丘にある原っぱまで行くことにしました。
ツネコさんのバスケットの中には、きっとおいしいランチが入っているに違いありません。
想像するだけで、よだれが出てきそうです。

ランランラン…。
2人は歌を歌いながら丘へと続くあぜ道を並んで歩いています。
途中、コンちゃんは道端に咲いていたタンポポをちぎって、ツネコさんにプレゼントしました。
ツネコさんはそれを自分の髪に刺しました。
また、途中で自転車に乗ったポン太が向こうからやって来るのが見えました。
ポン太はコンちゃんとツネコさんの、クラスメイトです。
ポン太は、コンちゃんたちとすれ違おうというとき、自転車を止めて、声をかけてきました。
「おう、コンちゃん、ツネちゃん。ふたりして、どこ行くの?」
「ちょっとそこまでピクニックだよ。ポン太は?」
コンちゃんは、答えるついでに質問しました。
「いや、あんまりいいお天気だったから、サイクリングしているんだよ〜」
ポン太はそう言うと、また自転車を漕ぎ出し、行ってしまいました。
コンちゃんとツネコさんは、また歩き始めましたが、しばらくすると、遠くから、
「それじゃーねー!!」
と、声が聞こえてきました。
さっきのポン太の声でした。
そこで、コンちゃんとツネコさんも力を振り絞って、大きな声で、
「それじゃーねー!!」
と、声をそろえて叫んだのでした。

ようやく丘の原っぱに到着しました。
コンちゃんは心の中で(ランチッ、ランチッ)と思っていたのですが、声には出せませんでした。
でも、ツネコさんが、
「ランチ持ってきたの。いっしょに食べましょう」
と言って、バスケットを持った手をちょっと上にやりました。
(やったー!)
コンちゃんは、また心の中で思いました。
でも、これは声に出していいかな、と思って、「ヤッター」と声に出して言いました。
でも、バスケットの中は空っぽでした。
ツネコさんが、入れてくるのを忘れてしまっていたのでした。
サンドイッチかな、おにぎりかな、と、期待まんまんだったコンちゃんは、予想外の展開にすっかりがっかりしてしまいました。
だけど、ズボンのポケットの中に板チョコレートを入れていたことを思い出すと、それを2人で仲良く分けて食べたのでした。

そのあと2人は原っぱに寝っ転がっておひるねしました。
太陽が、ぴかぴかぽかぽかあったかです。
そのとき、ふと、コンちゃんは思いました。

ぼくはなんで、ピクニックに行こうと思ったとき、ツネコさんといっしょに行こうと思ったのかなあ。
楽しそうだからかな。
だったらなんで楽しいんだろ。
ひょっとして、好きだから、なのかな。

ふと、体を起こして横を見ると、ツネコさんはぐっすり寝ているようでした。
あたりには、さわやかな風がときおり吹き抜けるくらいで、他に何の気配もしません。
ふたりっきりです。
コンちゃんはドキドキしてきました。
さっきまで普通だったのに、なんで急にドキドキしてきたんだろう。
そんなふうに思うと、ますますドキドキしてくる気がしました。
また横を見てみます。
まだツネコさんはぐっすり眠っているようです。
髪に刺さったままのさっきのタンポポが、こちらに向かってにっこり微笑みました。
コンちゃんは、タンポポを髪から抜いて地面に置くと、自分の右手をツネコさんのほほにあてがいました。
そして反対側のほほにそっとくちづけしたのでした。
すると、ツネコさんはそれに反応したかのように、ぱちっと目を開け、コンちゃんの方を見つめながらこう言いました。
「ジジジジジジ…!」

「うーん…」
男は目覚ましを止め、目を開けると同時に、頭に重い痛みが走るのを感じました。
ゆっくり体を起こすと、となりには知らない女が口を半開きにしたまま、熟睡していました。
ベッドから抜け出て、窓のカーテンを開けると外からまぶしい光が差し込みました。
しかし、窓から見える空は青空ともくもり空とも、どっちともつかないような、変に光った灰色なのでした。
男は振り返りました。
そして、窓の光がまぶしかったからか、眉間にしわを刻み、低い声でうなりながら寝返りをうつ女に向けてこう言い放ちました。
「なあ、いっしょにピクニック行こか」
無茶でした。

(書いた日:2001.12.31)


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