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[本]メイキング・オブ・ピクサー 想像力をつくった人々

「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」、「ウォーリー」など、これまで大ヒット作ばかりを世に送り出してきたピクサー・アニメーション・スタジオ。僕もピクサーには全幅の信頼を置いているクチですが、この奇跡のような企業ができるまでの経緯についてはまったくと言っていいほど何も知らなかった…ということがこの本を読んで分かったのでした。

メイキング・オブ・ピクサー 想像力をつくった人々
[本]メイキング・オブ・ピクサー 想像力をつくった人々/デイヴィッド・A・プライス、櫻井祐子・訳(amazon)

早川書房 2009.3.19発売 2100円
ISBN:978-4152090164

本をめくると、冒頭にピクサーを代表する監督、ジョン・ラセターの言葉が掲載されています。

キャラクター・アニメーションは、物体をキャラクターのように見せるとか、顔や手をつけるとか、そういうことじゃない。キャラクター・アニメーションっていうのは、物体をまるで生きているかのように動かし、考えているかのように動かし、そしてそういう動きのすべてが、自分の思考プロセスによって生み出されたように見せることだ……。生きているという幻想を与える思考。表情に意味を与える命なんだ。〔アントワーヌ・ド〕サン=テグジュペリも書いている。「大事なのは目ではなく、目つきだ――唇ではなく、ほほえみなのだ」ってね。

なんだかわからんけどとにかくかっこいい! と、この時点で既に打ちのめされるわけなんですが、本編に入ってからもピクサーのことを”何も知らなかった”僕にとっては驚きの連続でした。

物語はまず、ピクサーという組織ができる前段階の話になるんですが、時代は1960年代にまで遡るんですね。まずここで「え、そこまで遡るの?」とびっくりしました。だって、ピクサーと言えばコンピュータ・アニメーションですよ。その時代にはまだそんな技術すらなかったんじゃ…と思ったんですが、甘かったです。ピクサーの歴史はそのままコンピュータ・アニメーションの歴史と言っても過言ではないもの、なんですね。

すべての始まりは1969年、大学卒業後にボーイング社に就職したエド・キャットムル(現ピクサー社長)が、大規模リストラに巻き込まれて会社を解雇されるところから始まります。大学でコンピュータ・サイエンスを学んでいたキャットムルは大学院生として学部に戻り、そこでコンピュータ・アニメーションの研究を始めます。キャットムルは子供の頃、ディズニーのアニメーターになるのが夢だったものの、絵が上手ではないと気づき、断念していたんですね。でも、コンピュータを使えばアニメーションを作るという夢も叶えることができるのではと考えたのでした。
そしてこの夢は最初の長編作品である「トイ・ストーリー」が完成する1995年まで、ピクサーの原動力の核となります。

ということで、ピクサーって元を辿ると研究者の集団だったんですね。それも超エリートの。実際、キャットムルはテクスチャ・マッピングやZバッファというような、僕でも聞いたことがあるレベルのCG技術を1974年に考案しているとのこと。こういうエピソードを知ると、すごく腑に落ちるというか、ピクサーの技術がすごいのも当然だと思えます。会社ができる前からトップを走っていたんだからね。

その後、こうした研究はルーカスフィルムの目に留まり、1979年に研究メンバーを中心としてルーカスフィルムのコンピュータ部門が設立されます。これで夢に近づいたかと思いきや、まだまだ順風満帆とはいかないんですね。キャットムルたちの目標はあくまでコンピュータ・アニメーションの長編作品を作ることだったんだけど、ルーカスは単に映画制作のコンピュータ部門だと思っていたんだからそりゃそうだという話です。この頃には、ジョン・ラセターも(インターフェース・デザイナーという肩書きで)入社していて、1984年には「アンドレとウォリー.Bの冒険」という短編作品を発表するんですが、ジョージ・ルーカスの目には将来性がないと映ったようで、1986年にコンピュータ部門ごと叩き売られることになってしまうのでした。

その時買ったのが、アップル・コンピュータの成功で当時既に億万長者になっていたスティーブ・ジョブズその人です。ここでようやくピクサーと名付けられたの会社の歴史がスタートするわけなんですが、まだ長編作品への道は見えません。
僕は前から、なんでジョブズがピクサーにお金を出したんだろうとちょっと疑問に思っていたんですよね。アニメーションに対して、そんなに興味ありそうにも思えないし…と。それもこの本を読んで納得しました。ジョブズはピクサーを「ハードウェアの会社」として買ってるんですね。確かに、この時期にまだ実績もないコンピュータ・アニメーションの会社として売りに出したって、誰も買ってくれるわけないですもんね。
そんなわけで、ピクサーは「ピクサー・イメージ・コンピュータ」という名のグラフィックス・コンピュータを売り出すことになるんですが、アニメーション部門も、宣伝になるからとジョブズを言いくるめて存続させ、研究を続けるのでした。

当時ジョブズは自身が設立したアップルを追われ、一発屋扱いを受けていた時期だったんですね。そんなことも影響してか、ピクサーを買収した当初、ジョブズはグラフィックス・コンピュータがパーソナル・コンピュータと同じように多くの人々の手に行き渡る未来を夢見ていたようです。一見、荒唐無稽にも思える話なんですが、その強力なカリスマ性(又の名を洗脳能力、その又の名を現実歪曲空間)をもって聞く人を魅了してしまい、ジョブズが喋る度にピクサーの舵取りにも混乱をきたしてしまう状態が続いたようです。
この他にもジョブズに関してはおもしろエピソードがてんこ盛りで、なんてアクの強い人なんだとびっくり半分、爆笑半分で面白かったです。
これだけだとただのやっかいな人みたいですが、ジョブズが持つ莫大な資金、それにその後のディズニーとのやり取りでも発揮される交渉能力がなければ、今のピクサーが存在しなかったのも事実です。とにかくとんでもない人と言えるでしょう。

ところで、実はルーカス時代に長編アニメーションの共同制作の話が1件舞い込んでいたそうなんですが、このプロジェクトはピクサーになってジョブズに打ち切られたそうです。興味深いのが、このオファーを出したのが小学館だと言うんですね。もしこの話が実現していれば、ピクサー初の長編作品は孫悟空のアニメーションだったのかもしれないそうです。ただ、資金面や色々な面でハードルがあったようなので、ジョブズが中止しなくても実現は難しそうだったようですが。
ちなみに、資金稼ぎのためにピクサーがCM制作に乗り出した時も、最初に手掛けたのが日本企業、凸版印刷のCMだったそうです(1989年頃)。意外なところで日本の会社とも関わりがあるんですね。

その後のピクサーはと言うと、ハードウェアは全然売れずに部門ごと売却し、ソフトウェア部門とアニメーション部門に集中することになるものの、赤字の垂れ流しは止まらないのでした。1991年、ディズニーとの共同制作というチャンスをものにして、念願の長編映画「トイ・ストーリー」の制作を開始しますが、トータルで5000万ドルもの巨額をつぎ込んでも黒字になる見込みの見えないこの会社に嫌気がさしたジョブズは会社の売却を画策し、ついにマイクロソフトへの売却話をまとめようとします。ところが急にジョブズは気が変わり、やっぱり売らないことに決めるのでした。
この時、ジョブズの中でどんな心境の変化があったのかはわかりませんが、本の中ではピクサーのジェネラル・マネージャーの言葉として、彼の本能的なものが”とてつもないものになる”と告げたのでは、と書かれています。そして、そんなジョブズのお告げどおり、赤字垂れ流し会社だったピクサーは1995年、「トイ・ストーリー」の公開を機に奇跡の逆転劇を繰り広げることとなるのでした。

もう1人のキーパーソン、ジョン・ラセターがピクサーの歴史にはじめて登場するのは、ルーカスフィルム時代のことで、その時、ラセターはディズニーのアニメーターとして働いていました。従来の手法で描いた2DのキャラクターとCGの背景を組み合わせた作品を作るためにキャットムルたちに接触してきたとあります。
入社当時は、社内でも希望の星として扱われたそうですが、当の本人はちょうど低迷期だったディズニーに希望を見出すことができなかったようです。そんな折ディズニー社内で制作中だった、CGを使用した特撮映画の映像を見て、この技術をアニメーションと融合することをひらめきます。そこで上層部に企画(キャットムルに相談したもの)を売り込んだものの関心を持たれず、それどころか会社を解雇されてしまうのでした。
その後、イベントでばったりラセターと出会ったキャットムルは、ラセターがディズニーを解雇されたことを知り、その場で雇うことを決めます。

キャットムルたちはCGに関する世界最高のスペシャリストでしたが、それでもラセターのような”命を吹き込むことのできる”アニメーターと出会わなければ、今のピクサーはなかったんでしょうね。ラセターのアニメーションに関する考えは冒頭で引用した文章に集約されていて、本を読み始めた時と読み終わった後では、言葉の重みの感じ方がまるで違ってくるのがスゴイです。
そして、こうした希な才能の数々が集結したのも、最初にキャットムルが抱いたコンピュータ・アニメーションを作りたいという決して諦めない夢が強力な引力を発していたからに他ならないのでしょう。
自分メモも兼ねて長々とあらすじを書いてしまいましたが、ピクサーがなぜどこにも追いつけない圧倒的な存在であり続けるのか、その理由の一端が分かった気がする1冊でした。

メイキング・オブ・ピクサー 想像力をつくった人々(出版社の紹介ページ)
ピクサー・アニメーション・スタジオ(公式サイト)

#290 ピクサー、ディズニーとの距離置く方向へ(2003.8.29)…↑では端折りましたが、本の中ではディズニーによるピクサー買収、「カーズ」公開あたりのエピソードまで収録されています。

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